FEATURE STORY

地方独立行政法人 神奈川県立病院機構
神奈川県立こども医療センター
NICU(新生児集中治療室)

THE FIRST

「命を救う場所」であり「家族の日々を支える場所」。
新しいNICUの未来に、ザ・ファーストが寄り添います。

早産・低体重の赤ちゃん、病気や障がいなどのある赤ちゃんに
24時間体制で専門治療を行うNICU(新生児集中治療室)。
神奈川県立こども医療センターのNICUには、赤ちゃんのベッドごとに
カリモクのリクライニングチェアー「ザ・ファースト」がそっと置かれています。
赤ちゃんの命を助けるとともに、赤ちゃんと一緒に生きていくご家族を支えたい―
スタッフの皆様のゆるぎない思いが、新しいNICUを形にしています。
今回は、そのNICUリニューアルに携わった方々にお話を伺い、
赤ちゃんとご家族の笑顔を広げるストーリーをお届けします。

赤ちゃんとご家族の未来のため、生まれ変わった
神奈川県立こども医療センターのNICU。

2019年8月に改修工事が完了したNICU。
その全面リニューアルに至った経緯を教えてください。
豊島医師 病気やさまざまな問題と向き合う赤ちゃんを助けるために、NICUにはたくさんの医療機器が設置されています。保育器や人工呼吸器、計測機器、センサー、アラームなどがひしめいて、まさに「集中治療室」といった少々重い雰囲気。お母さん・お父さんなどご家族が赤ちゃんのそばについていたくても、なかなかできない。それが日本のNICUにとって一般的な風景です。だけど、本当にこのままでいいのか?と疑問を持ちました。「命を助けること」と「赤ちゃんとご家族が一緒に過ごす時間を支えること」、ふたつを両立させることが、これからのNICUには必要だと考えました。ここ20年ほどの間に医学が進歩し、NICUでお預かりする赤ちゃんの救命率はすごく上がっています。その分、病気や障がいとともに生きることになる赤ちゃんが少なくありません。生まれて間もない小さな体に何本もの管がつながれて、早産の場合だと入院が約半年の長期に及ぶケースもあります。そうした状況でも「ご家族が、赤ちゃん誕生の喜びや幸せを実感すること」が、後々の育児においてとても重要です。
齋藤医師 NICUに入院中、赤ちゃんが懸命に生きようとする姿を間近で見守り、病気や障がいなどへの理解も徐々に深めることが、退院後の育児や生活、家族関係にプラスになっていきます。また、NICUに来る赤ちゃんの約8%はここで命を終えてしまうため、その子にとってはNICUが一生を過ごす場所になります。だからこそNICUは、赤ちゃんとご家族が出会い、一緒に時間を過ごして、絆を育んでいく場としての役割も大切なのです。
菊池さん 先生方がそうしたお考えを持たれているとき、神奈川県の医療政策の一環として神奈川県立こども医療センター 周産期棟の改修工事の話が出ました。施設の老朽化と、県内のNICUのベッド不足が課題としてあったため、当センターのNICUと後方病棟を全面リニューアルすることが決まりました。現在、ベッド数が11床増え、後方病棟を含めて全54床です。県内のNICUでは最多となり、より多くの赤ちゃんの受け入れが可能になりました。

医療スタッフも、事務スタッフも。
多職種連携のワンチームでプロジェクトに挑む。

約5年前からリニューアルに向けてどう準備を進めましたか?
豊島医師 「集中治療」と「家族支援」を両立させるというコンセプトのもと、これまでにないNICUを形にするチャレンジングなプロジェクトでした。だから医療スタッフも事務スタッフも、みんなで意見を出し合い、思いを共有することを大切にしました。
齋藤医師 私は、家族が24時間滞在できるスウェーデンのNICUを視察し、日本とは異なる新生児医療や家族ケアのあり方を調査しました。その経験をふまえて、ご家族が過ごしやすい場づくりを考え、改修プランの検討にも力を入れました。
布施さん 看護師チームの目標は「生まれた瞬間から、赤ちゃんとご家族を離さないケア」です。多職種のスタッフみんなで話し合った内容を看護にどう取り入れ、NICUでの新たな看護・保育のしくみを構築するか、試行錯誤しました。妊娠中からお産、育児まで切れ目のない支援ができるように、看護師のチーム編成にも配慮しました。生まれてすぐのスタートラインから、赤ちゃんとご家族が“家族”として関係を築けるようなケアを、今も追求し続けています。
清野さん 私たち看護師は赤ちゃんやご家族と身近に接しています。看護師一人ひとりから、それぞれが感じていることを吸い上げ、会議の場で積極的にディスカッションしました。不便だと感じていた施設・設備の配置や動線、ご家族が困っていること、ご家族に必要な時間・空間など、さまざまなことを伝え合いました。
菊池さん 私は医療スタッフのみなさんの意見や思いを汲み、病院管理者や関係各所の方々も参加する会議で新NICUの意図を説明しました。高度な医療はもちろん、ご家族の居心地も大切にすること。それが、赤ちゃんとご家族の心豊かな日々、新たな新生児医療につながるというビジョンを伝え、改修プランに賛同をいただけるよう努めました。
豊島医師 多くの方々にご協力いただき、2019年9月に完成したのが、日本では珍しい家族滞在型のNICUです。出産直後から赤ちゃんと一緒に過ごせる母親のベッド付き治療室、退院後の生活に向けて親子だけで過ごせるファミリールームなどを整備しました。朝から夜までの自然な明るさに調光できる照明、鳥のさえずりやせせらぎなどのBGMを流す音響も導入しました。さらにこだわったのが、27床のベッドサイドに1台ずつ、カンガルーケアも想定したリクライニングチェアーを置くことです。

神奈川県立こども医療センター

1970年に設置された神奈川県立こども医療センターは、子どもたちの「げんき」と「えがお」を支える総合医療・福祉施設です。センター内には養護学校もあり、医療・福祉・教育を一体として提供。病気や障がいとともに生きる子どもたちとご家族をさまざまな角度から応援しています。
1992年には周産期棟が完成し、新生児科、母性内科、産婦人科で構成される周産期医療部門を整備。総合周産期母子医療センターとして厚生労働省から認定され、ハイリスク妊婦や治療を必要とする新生児を対象に診療・健康管理を行っています。中でも緊急の医療処置に特化したNICUでは、これまでに8600人以上の新生児の治療に力を注いできました。
このNICUで20年以上にわたって、力強く生きようとする新たな命と向き合い続ける、新生児科部長・豊島勝昭医師。日々の診療をはじめ、新生児医療の人財育成を目標とした研修システムの創設、全国のNICUの施設間差異を減らし診療成績向上を図る取り組みなどに尽力しています。また、TBS系ドラマ「コウノドリ」の医療監修、NICUの社会支援活動、講演なども行い、新生児医療の現状や生まれてくる命の尊さを多くの人に伝えています。

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