眠れる森の資産を地域共創で未来へつなぐ、
自治体と企業の協業プロジェクト

現在、日本の森林は大きな転換期を迎えています。戦後に植栽された針葉樹の人工林の整備不足が全国的な問題となる中、その陰でこれまでほとんど手が入らずに放置されてきた未利用の広葉樹林の存在、さらには近年広がってきているナラ枯れの被害など、山林が抱える地域課題は複雑に絡み合っています。

特に広葉樹は曲がった木が多く、太さも揃えにくいために家具市場では利用がされてこなかったこともあり、かつては燃料用チップとして取引されてきました。この現状を打破しようと、京都府南丹市を舞台に広葉樹を価値のある資産へと変えるための先進的なプロジェクトが始動しました。

このプロジェクトを実現したのは情熱と技術を持った次のメンバーです。

●サプライヤー/地域産材コーディネーター:広葉樹ai株式会社 宮田 俊太朗 氏

データによるサプライチェーン管理を構築し、分断されていた流通の「ハブ」として奔走

●ものづくり : カリモク家具

卓越した職人技と高度な製造技術により、素材の個性を活かした高品質な家具へと昇華

●自治体 : 南丹市役所 清水 易 氏

官民連携の土台を築き、天然林という「宝の山」を活かす未来への道標を策定

●ユーザー : 株式会社湖池屋 片山 和宏 氏

社有林との関わりから、地域還元と共生を体現するオフィス空間へ家具を導入

この「自治体・サプライヤー・メーカー・ユーザー」が一体となって、地域の未利用材を新たな可能性のある木材へと変えた先進的な取り組みについて、携わった3名にインタビューを行いました。持続可能な林業と地域貢献の新たなあり方を示す、このプロジェクトの舞台裏に迫ります。

Supplier / Coordinator

眠れる森の資産を、
データと情熱で未来へつなぐ。

広葉樹ai株式会社 地域産材コーディネーター 宮田 俊太朗 氏

Q1

広葉樹のサプライチェーンマネジメントに着想した、
一番最初のきっかけは何だったのでしょうか?

宮田氏:私自身はもともと林学の専門家ではありませんでした。プライベートで防災士の資格を取る機会があり、そこで山を整え、災害を防ぐ「治山」の講義を聞いたことがきっかけでした。そこで林業について知り、日本の森林が抱える課題と可能性に興味を持ったんです。

当時在籍していた企業の新規事業で林業に関する事業を提案したのですが、色々と調べていくうちに分かったのは、山で木を伐採する 「川上」と、中間の加工をする「川中」、そしてユーザーである「川下」が分断されているということでした。

そんな中で訪れたのが南丹市の原木市場です。とても立派で綺麗なクリの木が、広葉樹というだけで燃料チップ用として競り落とされる光景を目にしました。いくら立派でも樹種で用途が決まってしまう。後ろでは、木を売った方が「自分の木、なんぼで売れるかな…」と見つめている。それを見て本当に何とも言えない気持ちになりました。

このもったいない状況を打破するためには、需要から逆算して伐採と加工を管理し、川上から川下までを一気通貫で結ぶ、第三者のハブ(=コーディネーター)が必要だと確信したのが始まりです。

Q2

家具市場では敬遠されてきた「広葉樹」にあえて焦点を当て、
ネットワークを築かれた経緯を教えてください。

宮田氏:このプロジェクトで焦点を当てたのは、人の手が入らずに放置されてきた広葉樹です。広葉樹は太さのばらつきや湾曲などがあるため、大量生産の仕組みに乗りにくく、利用が進んできませんでした。中でも昆虫による伝染病に罹った「ナラ枯れ」の木は、虫喰いや変色があるため、製品化に不向きとされてきました。

これまではきれいな木材が広く使われてきましたが、これからは使い難い木材を避けるのではなく、木の個性も「自然のある種一つの豊かさ」として価値にしていく必要があると考えたんです。曲がった木や細い木、シミや虫食いがある木もある。そうした木材も使っていかないと、山から出てくる木が燃料などに使われてしまい、林業の負の循環は止まりません。

ただ、当時は林業とは無縁の京都の精密機器メーカーに在籍していましたから、地域や行政への繋がりも最初は本当にゼロでした。まずは京都府の自治体や森林組合、素材生産業者へ足繁く通い、データに基づく需要管理型サプライチェーン(SCM)の必要性と、現場の状況を伝えていきました。

木を製品にするには地元のチーム作りが不可欠です。しかし、京都府には広葉樹を扱える場所がほとんどなかったので、京都府の担当者から南丹市で地域貢献の志を持つ坂矢木材さん(丸太を板に製材する製材所)を紹介していただきました。坂矢木材さんが「一緒にやろう」と応えてくれたことで、地元の基礎チームがようやく形づくられたのです。

Q3

行政との公式な枠組み(プラットフォーム)ができたことで、
どのように「家具の完成・納品」まで繋がっていったのでしょうか?

宮田氏:民間企業だけでは単なるビジネスに見られがちですが、自治体が参画することで地域に信頼が生まれます。南丹市の清水さんをはじめとする林政の皆さんが熱意を持って「地域の森を良くしたい」と考えてくれたからこそ、南丹市、京丹波町、当時の在籍企業による林業活性化に向けた連携協定という公式なプラットフォームが実現しました。

この行政による公的な枠組みができたことで、山を管理する地元の森林組合が木材の供給を支えるパートナーとして動いてくれるようになったのです。

この思想を製品として形にするため、かねてより国産広葉樹の活用に取り組んでいた国産木製家具メーカーのカリモク家具に着目しました。最初はなんとカリモク家具の「お客様サポートセンター」に直接電話をかけてアプローチしたんです。

担当者の方も私の想いに共鳴してくださり、高度な木工技術によるソリューションで、地域の広葉樹が家具へと生まれ変わる道筋が見えました。

こうして川上である森林組合、素材生産業者から、川中の坂矢木材やカリモク家具が一本の線で繋がり、最終的なユーザーとなる川下として、同じ南丹市に工場を構えている湖池屋さんへと結びつきました。

大変なことも多かったですが、地域一体となったサプライチェーンを経て完成した家具を実際に目にした時は、本当に「すべてが報われた」と深く感動しましたね。

Q4

この取り組みを今後どのように成長させていきたいですか?

宮田氏:広葉樹の活用がしっかりと「買ってもらう人(企業やユーザー)」のメリットになること、これに尽きます。

どれだけ高い志があっても、広葉樹が使われなくては意味がありません。納入先の企業が環境への取り組みとしてIR情報に掲載できるなど、企業価値を高める仕組みにまで繋げてあげることが重要です。

今後は南丹市をはじめとして、たくさんの地域へ広げるための土台づくりを進めています。地域の木を無選別に余すことなく使い切る。そうすることが、日本の森林が抱える課題にアプローチし、地域の森をより良くすることへと繋がると信じています。

広葉樹ai株式会社

●住所
東京都中央区日本橋浜町3-10-1浜町ラボ4F
●公式ホームページ
https://koyoju-ai.com

Partner

「地域の課題」から「宝の山」へ。
人工林の枠を超え、
天然林に光を当てる行政の決断

南丹市役所 農林商工部 清水 易 氏

Q1

南丹市における林業の現状課題について教えてください。

清水氏:南丹市は森林率が高く、4割以上が杉やヒノキといった「人工林」です。戦後70年を経てちょうど利用期を迎えているのですが、安価な外国産材へのシフトや住宅着工件数の減少により、地域材の活用は厳しい状況にあります。市内でも間伐面積が減少し、従来の「林業=人工林の整備」というこれまでのやり方だけでは、これ以上の進展が見込めないという限界に達していました。

一方で、山林の残りを占める広葉樹の天然林は、かつては薪や炭、チップといった用途に使われていましたが、近年の化石燃料の普及とともに山に人の手が入らなくなってしまい、今後の管理や活用が行政としての大きな課題でした。

Q2

そんな中で、南丹市の林政が民間企業との連携に踏み切った背景は?

清水氏:国から森林環境譲与税などの新しい財源ができるにあたり、南丹市としても「南丹市森林・林業・木材産業振興ビジョン」を2024年2月に策定して今後の林業の道標を作ろうと動いていました。人工林の整備はもちろん不可欠ですが、これまで光が当てられてこなかった広葉樹をはじめとする天然林の活用という対策にも着手しなければならなかったのです。私自身、広葉樹の森は決して地域の課題ではなく、活用の仕組みさえ作れれば好循環を生む「宝の山」だと常々呼んでいました。

何か取り組めないかと模索していたとき、ビジョン策定に参画していた京都府の職員から「広葉樹の取り組みをしている、面白い人がいる」と地域産材コーディネーターの宮田さんを紹介されたんです。まさに願ってもない出会いでした。

行政だけでは難しいとされてきた川上から川下までの情報共有と連携を、宮田さんの情熱が繋いでくれる。そう確信し、南丹市としてこのプロジェクトに参画することになりました。

Q3

地域の広葉樹を使った家具が、庁舎へ納入された際の反応は?

清水氏:南丹市の広葉樹を使ったテーブルと椅子が2026年3月、南丹市庁舎に納品されました。

現在は庁舎の窓口や職員の打ち合わせスペースに設置して、日々の業務に使っています。このエリアの国産広葉樹は一般市場にはなかなか出回らないため、まずは行政自らが率先して公の場所で使っていく姿勢を示すことが大切だと考えました。

実際の反響は想像以上でしたね。市民の方や職員から「これ、どこの木?」とよく聞かれます。広葉樹特有の木目やナラ枯れ特有の色合いといった個性的な表情があるからこそ、自然と会話が生まれるんです。写真を撮っていかれる方もいて、市の広報誌でも特集を組みました。南丹市の木材を広くPRし、地域の広葉樹活用に向け大きな第一歩になったと感じています。

Q4

この取り組みを、「継続的な仕組み」にするための
展望はありますか?

清水氏:南丹市としてはこれで終わりにするつもりは全くありません。幸い、林野庁でも広葉樹活用のプラットフォーム構築に動き出しているので、今後は、人工林の整備とセットで広葉樹を安定的に出荷・利活用できるような、持続可能なシステムを地域に定着させたいと考えています。

この事例は川上の山から始まって、川下の地域社会に還り、すべてが豊かになっていく「三方よし」の循環となりました。これが、ひとつのプロジェクトに留まらず、全国の他の自治体や地域へも広がり、日本の「宝の山」が活かされる未来をつくっていきたいですね。

南丹市役所

●住所
京都府南丹市園部町小桜町47番地

南丹市役所の
納入事例はこちら
User

企業が地域に対してできること、
仲間たちと創り出した地域貢献の事例

株式会社湖池屋 京都工場 片山 和宏 氏

Q1

湖池屋京都工場が、地域の山林に関心を持ったきっかけは?

片山氏:私たちがポテトチップスを作るためには、毎日膨大な量のお水が必要です。京都工場では井戸水を使用しているのですが、その水源がある地域の山林を取得することになりました。

しかし、水をいただくばかりで、地域の森を荒れ果てたままにするのは湖池屋の本望ではない。大切な水源を守るため、地域の皆様に教わりながら、手探りで森の管理を始めていくことに決めたのです。

Q2

針葉樹の森の管理から始まった取り組みが、
なぜ「南丹市産の広葉樹家具の導入」へ繋がったのですか?

片山氏:山を引き受けたのは良いものの、社内には山林管理のノウハウが全くありませんでした。そこで地域の森林組合や、近くにある製材所の坂矢木材さんに恐る恐る相談に伺ったところ、「林を放置したままでは、山が衰退してしまう」という厳しい現実を教えていただいたんです。

そこで、まずはプロの協力を得て、自社の森を整備することから動き出しました。しかし、その過程で地域の皆さんと対話を重ねるうちに、自社の山だけでなく南丹市全体の山林で広葉樹の森に人の手が入らなくなっているという現状について知りました。お世話になっている地域の森も含めて、少しでも環境保全やSDGsに貢献したいと考え、広葉樹の活用方法を模索し始めたんです。

そんな時に紹介されたのが、まさにその広葉樹課題の解決に向けて地域を奔走していた宮田さんでした。宮田さんの「山を良くしたい」という熱意はもちろん、川上から川下までをデータで繋ぐサプライチェーンの仕組みを聞いた時に、「これなら地域に貢献できる」と共感できました。

そこからは一気に人の輪が広がりました。宮田さんを中心に山から木を伐採・搬出する地域の森林組合、丸太を板に製材する坂矢木材、京都の森を守り育む団体、そしてカリモク家具。みんながWin-Winになれる仕組みを本気で考えてくれる、素晴らしい「仲間」ができたんです。

この出会いがあったからこそ、「私たちの工場の応接室や休憩室に入れる家具を、南丹市の広葉樹で作ろう」という具体的なプロジェクトを進めることができました。

Q3

導入されたカリモク家具製のテーブルやベンチは、
オフィス空間や社内外にどのような変化をもたらしましたか?

片山氏:まずは京都工場の応接室と休憩室のベンチとして導入を決めました。実は社内で「カリモク家具に作ってもらう」と発表したとき、従業員からどよめきが起きたんです。みんなカリモク家具の価値や品質の高さをよく知っていて、導入後は本当に気に入って、愛着を持って大切に使ってくれています。

応接室は、私たちのSDGsや地域共生の「姿勢」を示す格好の発信基地になりました。お取引先様が来訪されるたびに、「すごく変わりましたよね」と驚かれます。その際、「味があるでしょう?実はこれ、南丹市の広葉樹なんです」と、森のストーリーをひとしきりご説明してから商談に入るのが定番になっています(笑)。

家具に刻まれた節や木目の豊かな表情が、張り詰めた会議の空気をリラックスさせてくれます。普通の家具では、絶対にこうはいきません。企業としての姿勢を空間そのものが語ってくれるんです。

Q4

地域に根ざしたオフィスづくりを目指す、
他の企業や自治体へメッセージをお願いします。

片山氏:このプロジェクトは、単なる家具づくりではなく、関わる人全員がポジティブになれる本当に素晴らしい出会いでした。山のおかげで、それぞれの領域を超えて前向きに好奇心を持って取り組む仲間たちができた。この協力の輪は一過性で終わらせず、今後は他の事業所や営業所、さらにはポテトチップスのノベルティ開発にも展開していきたいと考えています。

世の中には、たくさんの家具があります。しかし、もし自社のSDGsや地域貢献を本気で体現したいのであれば、足元の地域の森林から出てくる木材で家具を作って設置することをお勧めします。その土地と、そこで生きる人々への「投資」であり、未来への約束になります。ぜひ、自分たちの地域でもこの「三方よし」の好循環を始めてみてください。本当に、やってよかったと心から思えるはずですよ。

株式会社湖池屋 京都工場

●住所
京都府南丹市園部町千妻マカリ1-1

湖池屋 京都工場の
納入事例はこちら

地域の森を活かし、
企業の志を体現する空間づくりへ

3人のキーパーソンのお話を伺い、共通していたのは「一過性のイベントにしない」という強い決意と、このプロジェクトを通じて生まれた「信頼で結ばれたネットワーク」を大切にしている点です。

目に見えるプロダクト(家具)の美しさの背景には、コーディネーターの情熱、行政が繋ぐ官民の連携、そしてユーザーである企業の地域愛という、目に見えないリレーが存在しています。

これからは「地域のストーリーを語ってくれる家具」が、企業の志を示す時代になっていくでしょう。南丹市から始まったこの森林循環のモデルが、日本中の森を良い方向に変えていく未来が、もうすぐそこまできているのです。